「春にして君を離れ」を読む。
2025/11/23

「ミステリーじゃないけど極上のミステリー」と話題の、「春にして君を離れ」を読了しました。
1940年代の小説ということもあって、正直ナメてかかった部分もあったんですよ。
名著は名著だろうけど、今やそれを元に洗練されたチルドレン文学が山程あるわけだし、言うほどでもないだろうと。
なので「はいはい、こういう物語なのね」と想像しながら読み進めて行ったんですが・・・やられました。
全然思ってた結論と違った・・・。
さすがアガサ・クリスティー。
サスーン・クオリティ。
というわけで、感想をば。
ただ!!
これはある意味「ミステリー」のようなものなので、ネタバレ一切なしに読むのが絶対に面白いと思います。
さすがに古い作品なだけあって多くの人がレビューを書いてますし、なんだったらあらすじを聞くだけでも「こういうお話だったのね」は全部わかるんですけども。
要はシュタゲとかみたいな「記憶を消してもう一度読みたい」っていうジャンルにも含まれるような衝撃もあると想うので・・・(僕は2箇所ありましたw)そういう快感を味わいたい人は「まず読むべし」な作品ですね。
今やこの手の文庫が990円もするんだぜ・・・。
ちなみに「記憶を消してもう一度読みたい」とは書きましたが、決してその衝撃だけがポイントなのではなく。
これ、読み終えたらもう一度、どういう経緯で主人公の思考がそこに至ったのか・・・等々読み返したくなるんですよね、、、だからドハマリしちゃう人がいるんだろうな。
けれど一方で、ここに全く何の共感も得られない人というのも一定数いるだろうなというのも正直な感想で。
僕はそれはそれで幸せなんじゃないかと想うし、やっぱり可哀想だなとも想うのであります。
だらだら感想
ここからは作品の内容に触れていきますのでね。
読んでない人はUターンでお願いしますよ!
さて、僕の感想なんですが・・・やっぱり「ジョーンの出した結論」と「ロドニーの最後の一文」に震えましたね。
月次な感想というか・・・もうこの作品を語るうえではこれしかないだろうとさえ想うんですがw
まずジョーンの出した結論については「結局そっちかーい!」ととりあえずツッコミはしたものの、彼女が列車に揺られながら数日間悩み抜いて出した答えなんだと考えると感慨深いんですよこれが・・・。
人生なんてマンガや小説のように都合よく進むものではなくて。
例えば同じことを考えていても、元気だったらポジティブにもなるし、弱っている時にはネガティブにもなります。(まるで万華鏡のように!)
ジョーンは何一つ娯楽のない砂漠で一人、おそらくは退屈に絶望してネガティブな思考に陥ってしまったのでしょう。
一人で考え事をしている時なんて、たいてい悪い方向に物事を考えるものです。(僕は)
その結果、真相にたどり着きそうになったのに・・・慣れ親しんだ街の空気を感じたり、自宅で見知ったメイドに迎え入れられることで、あのネガティブな—真実かもしれない嫌な仮説は、”なかったこと”にできました。
というか、その方が自分にとって都合が良かったんですよね。
もし、周りの人達が、(自分が悪い方に考えたように)自分のことを良く思っていないのだとしても、表面上はいつものように接してくれているのなら、真実なんてなかった方が幸せなんですよ。
幸せのカタチなんて人それぞれなので、少なくともジョーンにとっては「今までと変わらないこと」が真相を知ることなんかよりもずっと幸せだったんだと思います。
なので、それを知ろうとしないことは怠惰なのではなく、あの結論を出したことはある意味彼女なりの勇気だったのかもしれないなぁと。
ロドニーの一文から物語作ったんちゃうん
もう1つの衝撃は、ロドニーの・・・いや、作品の一番最後の一文ですね。
思わず「うわぁー・・・」と声が漏れましたよ、、、
これは僕もすごく共感する部分があるというか。
ロドニーにとっての「ジョーンへの愛」の一つだとも思うんです。
愛であり、哀れみであり、優しさでもあり、諦めでもあるというか。
愛という形も一つではないので、ロドニーにとっても「ジョーンに真相をぶつけること」が愛ではなかったのだと思います。
愛情があるがゆえに言えない(言わない)ということがあるわけですよ。
それは「言っても仕方がない」のかもしれないし「言わない方がうまくいく」のかもしれない。
(バブズの手紙を捨てたのもこの伏線なのだ)
必ずしも全てをぶつけて100%理解しあうことだけが愛ではなく。
ロドニーにとっては「今までと変わらないこと」を与えられることが愛であり、それを続けられる自分というものに少なからず誇りを持っていたのでしょう。
僕は夫婦ってこういうものなのかなと思っていて。
お互い好き同士で結婚するわけだから、相手には幸せになってほしいと願うものなんだけれども、必ずしも自分の意見だけが通るなんていうことはなく・・・うまく折り合いをつけて「最大公約数的な幸せを作っていくもの」と。
ロドニーの願いもそうだったんじゃないかなぁ。
(なので僕は共感できたんですけども、逆に全く共感できない人もいるだろうなと思うのですw)
ンモー・・・アガっちゃん、この最後の一文を書くためだけにこの小説作ったでしょ!!
おわりに
ま、そういうわけで、めちゃくちゃ面白かったです。春にして君を離れ。
万人におすすめできるものではないんだけれど、万人に一度は読んでおいて欲しいというか。
そのうえで共感できたか否か語り合いたい!っていう、そういう作品だったかなw
ちなみにタイトルの「春にして君を離れ」は劇中でも触れられているシェイクスピアの詩の一節だそうですが。
現代は「Absent in the spring」(春の間の不在)ということで、なんともシャレオツな邦題になっていて良きですな。
(日本メール・オーダー社から出版された「オリエントより愛を込めて」もなかなか・・・こっちも読み比べたいなぁ)
追記
余談ですが、作中でジョーンが大半の時間を過ごした「テル・アブ・ハミド」、いったいどんなところか観てみたいと思って調べてみたところ・・・架空の場所だそうでw
実際はTell Kotchekというシリアとイラクの国境の地がそこに相当するみたいですね。
その隣にあるRabiaという町にある鉄道駅の写真を見てみたら・・・なるほど、たしかに(現在でさえ)見渡す限り何もなさそう。。。
2025/11/23









