前世の罪で生まれながらに罪人。壮大なスケール感の漫画「懲役339年」が面白い
2023/08/08
マンガワンで掲載されていた「懲役339年」を読ませて頂いています。
魂の輪廻というものがあるのなら、その者の業も輪廻するというのは、なるほど無理のない話かもしれません。
前世の行いが良かった者は現世にも良いことがあるし、
前世の行いが悪かった者は現世でその罰を受ける。または罪を償わなければならない。
ならば、その「前世で罪を犯した人」は、その前世の輪廻はなかったのか?
そして償うべき罪の重さは、その刑期によって決まるようなものなのか??
輪廻という概念が教典によって絶対的に正しいと信じられている世界において、
何世代にも渡って罪を償わなければならなくなった大罪人「ハロー」と、ハローを取り巻く「輪廻への疑問を持った人たち」が、何が正しくて何が間違っているのかと葛藤し、敵対する大きな悪に立ち向かっていく漫画です。
すごい。面白い。
懲役339年のあらすじと感想
悪逆の限りを尽くしたあげく、神の導きにも背いた大罪人ハローが最初に捕まった時、
彼に科された罰は「懲役339年」というものでした。
彼はその後20年の服役を経て発狂し、53歳で没します。
直後、法務庁の指示によって”身体的特徴が同じ”という理由で、ハローの生まれ変わりとして生後間もない赤子が収監。二代目ハローとなります。
生まれながらに罪人。外の世界を知らずして育つ二代目ハローに科せられている罰は残りの懲役319年。
「自分の罪を覚えていないのに、その罪を一生償っていかなければならない」。
二代目ハローは12年という若さで生涯を終える事になり、またすぐに三代目ハローが選ばれ・・
四代目、五代目と、肉体としては一度も罪を犯していない者達が生まれながらに収監されていく事になります。
同時に、ハローのそばで接するある刑務官の中に生まれた小さな「疑念」が、
年代を超えて伝えられ、賛同者が増え、ついに五代目ハローは大きな敵と対峙する決意をすることに。
ここまでが「第一部」~「第四部」の内容。
僕が読んだのはここまでですが、この後の展開がとても気になって仕方ないです。
時間をまたぐスケール感がすごい
僕がこの漫画を読んですごいなと感じたのは、その時間軸でのスケール感でした。
最近の漫画で言えば、ワンピースとか進撃の巨人とかも上手に時間軸を使った壮大なスケール感を演出していますが、漫画のテーマが小さいだけにこの時間軸のスケールが際立っているように感じます。
昔the Five Star Storiesのガイドブックで、FSSとデビルマン、AKIRAに幻魔大戦が時間スケールのすごい四大作品のように書かれていましたが、FSSを年表に沿って読んでいけたらこんな感覚だったのかなって思います。
二代目に影響をあたえ、死のキッカケを作ってしまった刑務官アーロックは、
三代目の生涯にも関わり、疑念を確信として手記に残します。
その手記を偶然手にしたのが四代目ハローに深く関わった刑務官であり、
彼がその手記を”大きな敵”から守るために託した友人が五代目ハローを立ち上がらせる為に暗躍する。
ここまでの間に100年近い年月が経っているにも関わらず、それは決して”昔話”なんかではなく、
リアルに彼らの葛藤を僕らが読み進めているからなのか、時間を旅しているかのような、そんな感覚にさせられるわけです。
この感覚には読んでてゾクゾクさせられました。
テーマがすごい
僕らは普段何となく神様に祈ってしまったり、お葬式で手を合わせたりしています。
もし、輪廻・・生まれ変わりというものがあるのなら、
罪はどこでチャラになるのか。
これはすごいテーマだと思います。
「罪は死んだら許されるのか?」
犯罪の被害者視点で考えたら、この答えは明らかにNOのはず。
では罪はどうすれば許されるのか?
そもそも許されるものなのか?
人が人によって決められたルールで懲役期間を決め、
その期間服役することで消えるようなものなのか。
そもそも、罪とは誰が許すことなのか・・?
もし、自分の前世にあたる存在の何者かがとてつもない罪を犯していたら、
現世の僕はその罪をどう償えばいいのか?犯してもいない犯罪を反省できるのか・・。
生まれ変わるということと、前世の記憶までは引き継がれないということ、
そして罪の存在はどうなるべきなのか・・というような事は、普段何気なく手を合わせて祈っているだけではきづけない事だなと思いました。
世の”権力を持った集合体”に向けたアンチテーゼ
この漫画では、権力者がうまく立ち回れるように”都合の良い生まれ変わりを作る”という行為が一つのキーになっています。
そもそも誰が誰の生まれ変わりかという事は、本来は神のみぞ知る事だし、
罪を許すか許さないかは被害者または神が決めること。
第三者によって決定されることじゃない。
二代目以降のハローは、権力者達の都合が良くなるようにハローとして選ばれた存在であるという事が明るみになると、そもそも初代のハローの罪すら怪しく思えてきます。
※この後の話で明らかになるのかもしれないけれど。
僕はしばしば、人間は自分と自分の周りの人間の利益の為ならば悪魔にでもなれる生き物だと思っています。
昨今の”保育園に入れなかった”という話もそうだし、育休、介護職の給与などなどの問題もそうなんだけど、自己利益のためには他者の不幸までを考えない。
そういった問題が頻発していると思うんです。
自分や自分の周りの人だけが幸せになることで、その遠くで歯車の影響を受ける人がどんな状態になるのか?
そういった世界へのアンチテーゼ的なメッセージも込められているのでは?とも思えました。
おわりに
漫画には2種類あって、1つは「何も考えずに読める、脳が溶けるような、その世界にどっぷり入り込めるようなもの」で、そういった漫画はエンターテイメントとして素晴らしいと思います。
僕が大好きなのはるーみっく作品全般。
一度読んだら抜け出せなくなって、もう何周も何周も読んじゃう。
でも、本作のような「読むのが辛いけど、考えさせられる」みたいなヤツもやっぱり面白いですね。
なんか精神が弱っている時には敬遠しちゃうんだけど、今回何の気無しに読み始めたらハマりました。
「懲役339年」はマンガワンのアプリで全話無料で読むことができます。
特に第三部のハローのラストが綺麗すぎて映画みたい。おすすめ。
2023/08/08